避妊・去勢

避妊・去勢手術による病気の予防

避妊去勢表1現在では、避妊や去勢は妊娠を避けるというよりはむしろ、病気の予防や攻撃性をコントロールするために行われることが多くなっています。例えば、メスの犬で最も多い腫瘍である乳腺腫瘍の発生率は、避妊の時期により大きな差があることが知られています。論文によると、乳腺腫瘍の発生率は初回発情前:0.5%、1回発情後:8%、2回発情後:26%とされていますので(表1)、初回の発情までに避妊手術を行うと、2回目の発情以降に避妊するより、50倍も乳腺腫瘍になりにくいことになります。

逆に避妊手術をしないと、50倍も乳腺腫瘍にかかりやすいということになります。また、犬の乳腺腫瘍の好発年齢は10歳前後で、50%が悪性と言われ、猫に至っては90%が悪性と言われています。できるなら初回発情以前(7か月齢以前)に手術をされることをお勧めしています。

一方、雄では、去勢手術を行うことで、高齢になった時の前立腺肥大を予防できるといわれています。加えて、攻撃性やマーキングの予防にもなります。

乳歯遺残

また、犬では6ヶ月齢前後で乳歯から永久歯に生え変わりますが、中には乳歯が抜けずに残ってしまう場合があります(写真1)。乳歯が残ると噛み合わせが悪くなり、歯石や歯肉炎などの原因となります。避妊、去勢で麻酔をかける際に、乳歯が残っている場合は一緒に抜歯することもお勧めしています。

避妊・去勢手術をお勧めする時期

以上のことから、当院では避妊・去勢共に7か月齢までに実施されることをお勧めしています。逆に、避妊や去勢によるマイナス点としては、麻酔によるリスク、必要カロリーの減少による肥満があります。前者については、もし高齢になってから乳腺腫瘍等で手術を行うよりは、若くて健康なときの方が手術のリスクは低いと考えています。後者については、オーナー様に栄養管理(食事量の調節)をしていただくことで解決することができます。

当院における手術に対する徹底管理

当院では、手術前に必ずレントゲン検査と血液検査を行っています。薬物は主に肝臓で分解され、腎臓から排泄されますので、主に肝臓や腎臓に関する血液検査を行います。また麻酔下では肺の呼吸機能も低下しますので、レントゲン検査での肺の評価も必要であると考えています。

また当院では、避妊・去勢の手術時には2種類(メタカム・ブトルファノール)の鎮痛薬を投与しており、術後の痛みが軽減されるように最大限努力しています。加えて、術部に関しても、なるべく傷口を小さく(写真2)することで、より低侵襲で痛みの少ない手術を行っております。
なお、術後はお迎えの時間までICU(写真3)(酸素濃度と温度と湿度が管理された入院室)にて入院管理を行っています。これらのケアを行うことで、術後に一泊入院はせず、当日帰れるようになっています。
知らないところ(入院室)で長時間過ごすことは、動物にとって大きなストレスと考えられ、痛みがなければ、家でゆったりと過ごすことが動物にとって最も良いと私たちは考えています。

術部写真